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キ゜ムカギのカギ ―「カギ(美)」について、再々度―

カテゴリ : 形容詞

だいず長らくご無沙汰をしてしまいました。
更新を中断すること、なんと一年あまり。んにゃよーい、ごめんなさいね〜。

さて。久しぶりながら、脳みそフル稼働な話をしようと思います。 しつこくも「カギ」について考えてみました。

というのも、このごろ、みゃーくふつメールマガジン「くまから・かまから」に、「キ゜ムカギ」という言葉についての原稿を書いたのですが(くまから・かまから VOL.180, 2008年 9月18日発行)、書く前に言葉の意味を整理していたら、「カギ(美)」という言葉への情熱が再燃してしまったのです。「くまかま」に書いたエピソードには、うすきな ながーながの言葉ウンチクはちょっと興ざめなので、載せませんでした。でも、考えながらいっぱい書いてしまった。情熱はまだ燃え尽きていないので、火の気の残っているうちに、じゃじゃーっと整理してこちらに書いてしまおうと考えた次第でございます。

あっ!書いている本人が脳みそフル稼働のため、ところどころバチバチッとショートしている文章になるかもしれませんが、何卒よろしくおつきあいくださいませ。


まずは「キ゜ムカギ」を分解。

まず、「キ゜ムカギ」は「キ゜ム」+「カギ」の2語からなっています。「キ゜ム」は、「肝(きも)」、「カギ」は「美しい」という意味です。それぞれの語について、さらに詳しく書いてみます。

1. キ゜ム /kizmu/

肝(きも)というと、現在ではほぼ「内臓」のイメージしかありませんが、古くは「心」の意味もあります。古語辞典の説明を見てみましょう。

きも【肝・胆】
  • 肝臓。また、内臓の総称。はらわた。
  • 心。思慮。胆力。気力。

『全訳古語辞典』

ね。あと、現代語にある「肝に銘ずる」とか「度肝を抜かれる」とかの「肝」も、どちらかというと「内臓」よりは「心」の意味ですね。

琉球方言では今もはっきりと「心」意味で使います。
沖縄本島の方言では「チム」という発音になりますが、チムドンドン(どきどきする)、チムガナサ(恋しい<心愛さ)、チムグリサ(かわいそう<心苦しさ)といった言葉がありますね。
宮古方言では、「キモ」と「チム」の中間のような発音です。問題は「キ」に半濁点「゜」をつけて表記している音ですが、もちろん共通語の表記法ではありませんね。共通語にない発音です。ちょっと発音についても書いてみましょうか。

宮古方言のイ段音は、中舌音化します。と、さらりと書いてみる。
何のことかというと、読んで字のごとく、通常のイ段よりも舌が少々奥まるのです。それで、少しウ段によりつつあるような音になります。さらにこの口形だと、息の通り道が[z]の音を発声するときとにたようになってしまうので、その[z]のかすれたような音声も一緒に出てきてしまうという、妙な発音です。
あがいー、やっぱりだめだ。あんなにこんなにと説明しても、どうもこの発音うまく伝えられない気がする。宮古人に発音してもらってください。

強いて言えば、「し」とか「ち」とかいうときの息の抜け方に似ている。なんでかわかる?
この前の方言教室で、新里先生が「共通語であってもこれらの音は、中舌音です」と仰った時には、ぴんとこなかったけど、今ふと思い当たりました。本当に、たった今! 自分でびっくり。私、凄いかも(何のこっちゃ)。

あのね、まず「し」と「ち」を、ローマ字で書いてみてください。ヘボン式ローマ字で。
それぞれ[shi]、[chi]となりますね。ほかのサ行・タ行と違って、[h]の音が入ります。この[h]が綴りに入る音は、舌を奥にして発声します。
たとえば[si](スィ)と[shi](シ)のふたつの音を、舌の位置に気をつけながら発音して比べてみてください。ね、違うでしょ? 
中舌音、というのは、こんな感じで舌が奥まる音なんだとイメージしてください。英語のsh音の方が、日本語よりもさらに舌が奥になるので、こちらが近いかな。

なんだか発音解説の方が長くなってしまいましたが、キ゜ムについてはここまで。さて、次。

2. カギ /kagi/

解釈に悩むのはこの「カギ」の方。2007年1月に書いた「美を表す方言『カギ』について、再び」は、ながーながと書いた割に、すっきり解決できずじまいだったのでした。ですので、3度目の正直、を目指して、再々チャレンジです。

まず、「美を表す方言『カギ』について、再び」に書いたことのおさらいからです。

「カギ」は、仲宗根政善氏の説で「カーギ」は「影」が語源とされています。
この「影」という語は、ものの姿や形のことをいい、古義には「光」という意味もありました。また、「姿・見た目、ようす」という意味で使われる名詞形の「カーギ」も語源は同じであるとのこと。
ここまでが、前回までにわかったことです。

名詞形である「カーギ」の方が、語源の「影」と直接の対応関係にあるではないかと、今は思っています。

そういえば、この語の音についてはまだちゃんと書いたことがなかったと思うので、まずはそれから書いてみます。

宮古方言のイ段音は、共通語のエ段音に対応します。たとえば、フニ<舟(フネ)、アシ<汗(アセ)など。もともとのイ段は追い出されて、中舌音化します。先述の「キ゜」の発音のように。
ということは、「カギ」の「ギ」はもともとはエ段音、「カギ」は共通語の「かげ」と対応することになります。これで「カギ」=「影」の裏付けがとれましたね。

さて、この語の意味を考えるに当たって、名詞形の「カーギ」の使われ方でぱっと頭に浮かんだことを書いてみます。

「カーギヌ ニャーン」

という言葉があります。直訳すると「姿が無い」。でも、透明人間のことではありません。きちんとしていない、格好が悪い、垢抜けていない。そんな人のことをこう言い表します。
カーギは「ある・なし」の概念なのです。「カーギがある」のは、身なりがきちんとしていて、垢抜けた感じのする人。

あー、なんか分かってきたような。「美しい」のは「あるべきものがある」という状態なのでは。
平均に対して上位概念の「美しい」というのではなく、通常の状態が「美しい」、それに足りなければ「カーギヌ ニャーン」という、引き算の概念。
こんな考え方、どうでしょう。


ところで「カギ」の品詞は何ぞや。

「『キ゜ムカギ』とは何ぞや」ということを考える前に、もう一つ「カギ」という言葉について整理したいことがあります。

「カギ」を私はこれまで一貫して形容詞として扱っていたのですが、そのままだとおかしい、ということに気がつきました。
形容詞とするなら、終止形をクアル形にして「かぎかる(かぎかす°)」とするのが通常形ではないかと思うのです。私のたらーん方言経験値では、そんな形があるのかは存じませんが(どなたか習ぁしふぃーさまち!)。
で、「カギ」はその語幹(活用しても変化しない部分)という扱いになるのでは?と思うのです。それで、ちょっと考えてみました。

カギ スマ(美しい島)とか、カギ ピカズ(良い日取り)」という言い方のように、「カギ」の後ろに形容される名詞がくるのが本来の形ではなかろうか。お。いきなり「私がくま・かまの原稿で使った用法は間違いかもしれません」宣言か。
でもね、「キ゜ムカギ」のほかにも、「すなかぎ(品+カギ=上品)」もありますからね。道ばたの看板にもある用例がわざわざ間違った方言だとは思えません。ちょっと、名詞っぽい使われ方をしているのだと思います。

ちょっと逆の考えをしてみます。
形容詞を名詞として使う、ための条件。たとえば、形容詞「長い」が名詞「長さ」となるとき。形容詞「美しい」が「美しさ」となるとき。これは、形容詞語幹+接尾辞「さ」をつけたもの。程度・状態を表す名詞のつくり方です。
「カギ」も、同じ用法で「カギサ」(美しさ)として使われます。

それでね、ここから先は私の、どぅーかってぃ(自分勝手)な思考展開です(つまり妄想)。
形容詞「赤い」が、接尾辞「さ」をつけて名詞「赤さ」となります。「赤さ」の形容詞語幹は「赤」。そのまま、色名の名詞。
名詞形が先か、形容詞形が先か、というのを私は知らないので、もしかしたら間違いかもしれないですが、こういう考え方もありかな、と。
それに、色名だけでなく、「広い」「広さ」に対する、単位「尋(ひろ)」というのもあるので、「カギ」もこうやって、名詞っぽくなってきているのかなあ、と。普段の会話で「カーギ」として使われる言い方を、「カギ」に置き換えると違和感があるので、名詞っぽく、という表現を使っていますが…。


では、「キ゜ムカギ」とは何ぞや。

まず、ひとつ問題。もとの名詞形「カーギ」が「ある」ということを前提とした言葉なら、「カギ」には「そのカーギ(姿・ようす)がある」という意味の含め方ができると思います。
ということは、「キ゜ムカギ」というは「心(のそもそものあり方の)姿がある」>「心ある」ということなのかしら。
「心ある人」って、親切な人のことをいますよね。確かにそれは、「キ゜ムカギ」かもしれない。

でもね、「心ある」は一番近いと思うけれど、やっぱり「キ゜ムカギ」は宮古方言独自の言葉だな、と、個人的には思います。
これだけ意味を遠回りさせてようやく「心ある」という表現と同じように解釈ができるわけですから、迂回ルートを通る間にもっといろいろなエッセンスがしみこんでいるのではないかしら。なあんて勘ぐっております。

それにしても、最初に「カギ」という言葉についての記事を書いたときから、もう2年あまり経ってしまいました。今回でようやく、意味の整理がついた気がしますよ。勉強の成果もあるのかな、と、ちょっとほっとしております。


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Posted by Motoca at 2008年09月19日 07:50
コメント(4) | | カテゴリ:形容詞

この記事へのコメント

形容詞ですな。
かぎかー!(美しい)とか、きむかぎさぬ!ってなかんじで、「かー」とか「さぬ」を付けて使っていますな!

野良山羊3頭を昨日、縄でふっちて捕縛しました。夏植えのキビを新芽を食い散らす害獣と成り果てたのも、当方及び迷惑なくそじじいのせいなので・・・。明日、食肉センターに連れて行って山羊汁になる予定です。
んじゃらば!
Posted by 神童 at 2008年09月28日 22:07
神童さん>
そうですか!形容詞ですか!
かぎかー(カギ+かる)の形があるんですね。なるほど、したら形容詞だ。
ああ、すっきりしました。ありがとうございます!

そして、すみません。コメントいただいていたの、実は結構すぐに気づいていたのに、2週間以上放置してしまいました・・・。
ピンザずーの続きはリアルに聴いたので省略いたしまする。
Posted by MotocaMotoca at 2008年10月13日 00:54
はじめまして。「ワイドー」の意味をネットで探していたらこのサイトを発見!!去年宮古に引っ越して来たのですが、宮古の方言は全く分からず、よく見かける言葉もいちいち調べて、「あーそういう意味ね。」って1人で納得しています。(汗)このサイトは、方言の意味だけではなく、使ってる人のフィーリングまで細かに記載してあるので、本当に興味深いです!次の更新楽しみにしています☆
Posted by 宮古島ツアー at 2009年02月07日 16:01
宮古島ツアー 様>
初めまして。コメントどうもありがとうございます。

このブログがお役に立てたようで、光栄です。

>使ってる人のフィーリング
ということばに、はっとしました。
なんとなく、学術的にちゃんと書かなきゃ、と去年は考えてしまっていたので…。
言葉は生き物なのにね。もうすこし、自分の感覚も生かして書こうと思います。

たんでぃがー、たんでぃ。大感謝です。
Posted by MotocaMotoca at 2009年02月11日 11:07

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