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「美」を表す方言「カギ」について再び

カテゴリ : 形容詞

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
2007年最初の記事です。そして、前回の更新から2ヶ月以上経過。いやはや。

今年一発目の記事は、去年の宿題(泣)。
沖縄本島の方言「チュラ(清ら)」に対応する先島の方言「カギ」系の語についてです。 このブログの、かなり初期の頃に書いた「カギ -『美』を表す方言 1-」(2006年3月24日)では、「カギ」も「チュラ」の原形である「きよら(清ら)」からの派生ではないか、という考えを持っていたのですが、どうやら違うらしい。

去年の10月にある大学の公開講座を受講していたのですが、そのときお会いした先生に「カギ」の語源についての資料を教えていただいたのです。
しかし、どう解釈したらよいのか、なかなか考えがまとまらず、手元に資料を置いたまま3ヶ月が経過してしまいました。

まとまらないならまとまらないままで(開き直り)!
興味深い資料であるので、ご紹介しながら、考えていきたいと思います。

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
2007年最初の記事です。そして、前回の更新から2ヶ月以上経過。いやはや。

今年一発目の記事は、去年の宿題(泣)。
沖縄本島の方言「チュラ(清ら)」に対応する先島の方言「カギ」系の語についてです。 このブログの、かなり初期の頃に書いた「カギ -『美』を表す方言 1-」(2006年3月24日)では、「カギ」も「チュラ」の原形である「きよら(清ら)」からの派生ではないか、という考えを持っていたのですが、どうやら違うらしい。

去年の10月にある大学の公開講座を受講していたのですが、そのときお会いした先生に「カギ」の語源についての資料を教えていただいたのです。
しかし、どう解釈したらよいのか、なかなか考えがまとまらず、手元に資料を置いたまま3ヶ月が経過してしまいました。

まとまらないならまとまらないままで(開き直り)!
興味深い資料であるので、ご紹介しながら、考えていきたいと思います。

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「カギ」は「影」のこと?

その資料というのは、琉球方言研究の大家、仲宗根政善氏の著書にある。
奄美・沖縄(つまり北琉球方言域)で多用されている「きよら」が、先島では用いられない、と断言されている。そのあとに、以下の引用部分が続く。

先島では、「かげ」が「美しさ」「立派さ」を表わす。

上代では、「かげ」は(一)「光」*の意味を持っていた。「日かげ」「月かげ」は、「日光」「月光」である。(中略)上代にさかのぼるほど、「かげ」は(一)光の意味を多く保って用いられていたようである。

中略した箇所に他の意味が挙げられている。(二)光に照らされてうつる影(三)光もない黒い陰

『琉球方言の研究』仲宗根政善, 新泉社, 1987年, p287

正直にいいます。私は最初、素直に「そうなんだー!」とは思わなかった。

だって、ひとつの単語の中に、相反するふたつの意味が含まれていたなんて、納得いかない!
それで、手元の古語辞典を引いてみた。

「光」「光るもの」が本来の意味で、「日影」は「日の光」の意味である。さらに、目に映る姿や形、心の中に思い浮かべる姿や形の意味にも用いるなど、像として結ばれるものすべてをさして用いられる。
  1. [1](日・月・灯光などの)光。
  2. [2](人や物の)姿・形。
  3. [3](心に思い浮かべる)顔・姿。面影。
  4. [4](人や物の)影。
  5. [5](実体のない)影。幻影。
学研『全訳古語辞典』の、「かげ【影・景】」の項目より抜粋

ええーっ、本当だ。古語辞典でも、いちばんめに「光」の意味を載せている。再度驚き。
大先生の著述を一発で信用しなかった私も私だが。

[1]の「光」の意味に対して[2]~[4]の意味はその結像を指すことになる([5]はその幻想)。光があるからこそ、ものの姿・形が見えるのだ。光がものに当たり、その反射が目に映って像を結ぶ。
上古の日本人は、思ったよりはるかに科学的な考えをしていたのかも知れない。

そうだ、現代語(共通語)の「かげ」にも「姿」の意味がある。

「茂みの中に、人影が見えた」
っていう場合の「影」は、「姿」の意味ではないか。あがーい。生まれてこのかたずっと勘違いしていた。
うすぼんやりとして正体がはっきりしない(暗くてよくわからない)から、「影」っていうんだと思っていた。
…んにゃ、だーいず(あら大変!)。私は古語や方言の勉強をする前にまず、ふつうの日本語を勉強し直した方がいいはず。

なぜ、「影」が「美」の意味を持つのか

さ、気を取り直して。

沖縄本島の方言でも、宮古方言でも、「カーギ ⁄ ka:gi ⁄」といえば「姿、見た目」のことである。
宮古では、「カギ」と「カーギ」。前者が「美」(または「影」;アクセントの区別なし)で後者が「姿」。ずっと、そういう認識でいた。ところが、見た目が悪いことを「カーギ ヌ ニャーン ⁄ ka:gi nu nja:N ⁄」という。美しくないのを「姿がない」というのは何故だろうとずっと思っていたが、「カーギ」=「美しさ」なら、意味が分かる。
これに気がついたので、「カギ」「カーギ」が根を同じくする言葉だということには納得がいった。

ちなみに本島方言でも、「カーギ」だけで「美しい」を意味する表現があるとのこと。先に引用した仲宗根政善氏の文章は、こう続く。

沖縄本島でも、「キヨラ」をつけないでも「カーギヌ アン」だけで容貌が美しいことを意味する。しかし(一)「光」のような意味がうすれて、チュラカーギーと言わなければ、気がすまなくなったのである。

それで、問題の本題はこの先。「カギ」がなぜ「美しい」という意味になるか、だ。
仲宗根政善氏の記述だと、つまり「光」の意味があったから「美しい」になった、という風に読めるのだ(私の読解力がないだけか~?)。

美しい人は輝いている。確かに。
有名人の中でも上位の人を「スター(star)」っていうのとも通じる気がする(これは多分、英語の概念だけれど)。

いや、でも、そういうふうなニュアンスではないはず。うーん。

ひとつ思い当たった。
宮古方言の中で、接尾語のように使われる「カギ」。

  • 「キ゜ムカギ」 ⁄ kym kagi ⁄
  • 「スナカギ」 ⁄ suna kagi ⁄

「キ゜ム」は、「肝(きも)」の転訛。つまり「心」のこと。「キムカギ」は、心優しい、というような意味だ。
「スナ」は、「品(しな)」の転訛。「スナカギ」で、「品が良い、上品な」と訳される。

いつだったか、城辺(ぐすくべ)道路沿いに立てられている看板の文句がちょっと話題になった。

「城辺町の児童・生徒は すなかぎ・くがに」

「すなかぎ・くがに」で熟語のようにワンセット。
「くがに」は「黄金(こがね)」、つまり宝物。宝(貴金属・宝石を連想)はきらきらしているし、磨けばもっとよく光る(!)。
それに、「心を磨く」っていう表現もある。

正月早々、実家の床に寝そべって、カーテンの裾から漏れる光を撮りました。

それで、無理やり結論。
「磨けば光る」のだ。ぴかぴかと。その磨きのかかった姿が、つまり「美しい」。
発光ではなく、反射光だけれど…。

武士道っぽいけど、より遙か昔から日本人の心にあるものかも知れない。
ほら、武士道以外にもあるよ。○○道というのが、昔から。華道に茶道に書道に…。
みな、腕を磨いて「美しい」作品を作る「道」。

磨きをかけて、光り輝くのが「美しい」んだ。外見ではなく、内面。
その「影(=姿)」を見て「カギムヌ(美しいもの)」というのだろう。



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Posted by Motoca at 2007年01月26日 23:10
コメント(2) | | カテゴリ:形容詞

この記事へのコメント

大変興味深く読まさせて頂きました。
まーんてぃ たんでぃがーたんでぃ。 スィディガフー シィデガフー
ナイチャーですが「みゃーくふつ」に、興味?あり「宮古民謡」三線も
ピッチャガマやってます。 「宮古のあやぐ」その他知らなかった意味を知る喜びも「宮古民謡」のプカラスなところです。
これからも頑張って下さい。応援してます。
昨年「とうがにあやぐ」の二番の件・・・・・はるぬデイグぬぱなぬにゃんみゃーくぬあやぐや
「すうにずま」「すうに島」・・・・に興味湧き調べました。
宮古島は「曽根島」なんです。
Posted by んみゃーちおじさん at 2007年01月27日 06:40
書き終わってからも、まだ考えてしまいます。「光」と「影」と「美」の関係。
あとから考えたことも、書き足そうかな。

んみゃーちおじさん さん>
ありがとうございます。

とうがにあやぐ、私はいつまで経ってもこの曲のメロディーが覚えられないのに、曲の出だしを聞くといつも、背筋をぴっと伸ばされる気がします。行儀よく聞きたい・・・。
「すうにずま」、いわれて気になって、手元にある民謡の歌詞帳をいくつかみてみました。「すうに島」「そね島」「すにづま」・・・表記がいろいろありましたが、「曽根」だったんですね。

宮古をさす名称。
宮古に麻古山に太平山に、曽根島が追加。元来の名前は一体どれでしょうね・・・。
いつか謎解きしたいですね。
Posted by Motoca at 2007年01月28日 17:58

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