トップページ > 感嘆詞 > 個別記事:アバ!

アバ!

カテゴリ : 感嘆詞

2005年の流行語大賞でいうところの「想定外」。

ひとことで言ってしまえば、そんなニュアンスの感嘆詞です。
驚き、意外性。急激な感じ。たとえば、

ゴムボールを地面に向かってまっすぐ落としたのに、向こう側へ跳ねていってしまった。

そんなときに出てくる言葉。

しかし何故「アバ」なのか。語源は何か。
ずっと見当もつかずにいたわけです。

そんな折、偶然にもそれとおぼしき言葉を発見したのでご報告をば。

所用で古語辞典の「あはれ」の項目を見ていた。

実はこの言葉、「アパラギ」についての記事を書いたときにも同じ辞書の、同じ項を引いている。そのときは「あはれ」の概念に関する項目(あはれ-2)しか見ていなかった。
視野狭窄とはまさにこのこと。この「あはれ」自体の意味(あはれ1)のはじめに、こう書いてある。
[一]感動詞 ああ。あれ。

感動詞(感嘆詞)は、今の言葉だとやはり表現が難しいようで、これだとどんなニュアンスだかよく分からない。
唯一、手がかりとなるのは、このすぐ後に付されている例文である。

[源氏物語]夕顔あはれ。いと寒しや」(訳)ああひどくさむいことだ。

それだけではやはり分からないので、他の資料より前後の文脈を探ると、どうやら下賤の者たちが、その年の異様な寒さに、農作物の具合を心配している会話の様子である。
ならばこの感嘆詞の「あはれ」は「アガイ(テンション表の下から2~3番目あたり)」のニュアンスに近いような気もするが、そこに強烈な驚き(意外性)の感情が入るなら「アバ」とすることもできよう。
無理矢理まるごと宮古方言にすれば、「アバ、アティ ピシムヌ ヤ」となろうか。

「寒し」が「ピシ(冷し)」となる以外はそのまま古語の音をなぞって変えることができてしまう。恐るべし宮古口。

音韻の点からも立証してみる。
私は、「アパラギ」について書いたとき、次のような記述をしている。
標準語の「ハ行」の音に「パ行 [p]」が対応する。

日本語でも昔は「ハ行」を「パ行」で発音していたとのこと(時を経て[p]→[f]→[h]と変化)。
また、日本語では、「バ行/b/」は「ハ行/h/, /Φ/」言語学では「パ行/p/」の濁音が「バ行/b/」である。

つまり、昔は「あはれ」が「あぱれ[apare]」と発音されていたことになる(余談だが「あっぱれ(天晴れ」も「あはれ」と同根である)。
やがて、琉球方言の特徴である、母音[e] → [i]の変化により「アパリ(apari)」となるのである。この辺で「アガイ」が生まれそうな気もする。

そこで思い出したのだが、下地勇さんの「我達が生まり島」の歌詞に、
「職パギば しぃどぅ、回りう つぁ、アバイガ アバイ(失業中だってさ、おやまぁ)」という一節がある。
発音の揺れなのか、地域による発音差なのかまでは分からないが、この「アバイ ガ アバイ」は、ニュアンスからして「アガイ ガ アガイ」と同じである(感嘆詞または形容詞を「が」でつないでふたつ繰り返すことで、強調の意味を持つ)。会話をしているオバさん達が何かにつけて口々に「アガイ」と発している風景だ(昔、田舎によくいた世話焼きな、いや世話好きなおばさん達)。

仮説で仮説を証明するようだが、「アガイ(アバイ)」も「あはれ」からの派生だとしたら、
「アパリ[apari]」 → 「アバリ[abari]」 → 「アバイ[abai]*」 → (=)「アガイ[agai]」
と言う発音変化の序列が成立しそうである。

* … 方言で、ラ行の子音欠落は頻繁に見られる現象である。

そうなれば、「アバイ[abai]」の語尾が欠落して、やがて「アバ[aba]」になる可能性も見えてくる。

「アバ」の語源を立証しようとして、「アガイ」まで引きずり込んでしまった。感嘆詞が、少ない言葉からいくつにも分岐して発達した証なのだろうか。
もともと語彙の少ない「方言」というもののなかで、あれだけ感嘆詞が豊富になった理由は何だろう。少ない言葉を補うために、感情表現の語が増えたのだろうか。
謎を解決したのか、尚更に絡めさせたのか。祖先の言葉ながら、奥の深さに改めて驚くばかりである。



同じカテゴリー(感嘆詞)の記事
アッガイタンディ!
アッガイタンディ!(2006-07-26 22:46)

タンディー
タンディー(2006-03-21 02:15)

ハイ~!
ハイ~!(2006-03-21 02:00)

アイジャ
アイジャ(2006-03-21 01:45)


Posted by Motoca at 2006年08月13日 06:00
コメント(2) | | カテゴリ:感嘆詞

この記事へのコメント

「おごえ〜〜」はやはり同系でしょうか?
まじめに尋ねる自分が変ですが、どう思われますか?
Posted by あとぅを at 2006年09月11日 23:13
あとぅお様>
はい。同系だと思います。

私の勝手な理論で(トンデモ論です、すみません)、
あまりの驚きに、瞬間的に口を「あ」まで開く余裕がなくて、
口腔がまだ狭い状態(「お」の形)のうちに声を出してしまって、
「あがい」->「おごえ」になったんじゃないかと考えています。

アガといいアガイといいアバといいアララといい、なんだか母音が揃っていることが多いです。宮古の感嘆詞。
Posted by Motoca at 2006年09月11日 23:46

コメントを書く

上の画像に書かれている文字を入力して下さい
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。