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方向の感覚

カテゴリ : 名詞

みなさま、お久しぶりでございます。なんと前回の更新から2年近くが経過してしまいました。その間、いくつかの記事にコメントもいただいていたのですが、お返事もせずに申し訳ありません。
6年前に書いた旧盆の記事を手直しするために、かなり久しぶりにてぃーだブログにログインしたところ、書きかけでもうちょっとでアップできそうな記事を見つけました。で、イキオイでこれも手直ししてアップしてしまおうと決心した次第です。

さて私、地図を片手に持ちながら、目的地と逆方向に(自信満々で)直進するのが特技の大方向音痴でございます。現在位置を示してくれる、スマホの地図でもダメ。
さて、そのわたくしが! 方向・方角についての表現について挑んでみました。大丈夫かしら。


東西南北

まずは、各方位を表す方言からご紹介します。

1.  東と西

  • 東: /agazˌ/  アガス゜
  • 西: /yizˌ/ イス゜

太陽は、東から昇り、西へ沈む。そんなわけで、「東」は「アガリ(上がり)」、「西」は「イリ(入り)」と呼んでいるのでございます。

そういえば、天体は「昇る/沈む」だけではなく「上がる/入る(イル)」という表現を聞きます。
暦に書かれている「日の出/日の入り(の時刻)」もそうですし、「イル」の方は、「菜の花畑に 入り日うすれ 見渡す山の 霞深し」っていう歌詞がありますね(朧月夜)。

宮古方言には、日没する太陽のことを「ユクウ ティダ(憩う太陽)」という表現もあります。この表現、とてもほんわかとしていて、大好きです。

2.  北と南

  • 北: /nis/ ニス
  • 南: /pai/ パイ

共通語では west がニシですが、沖縄方言では north がニシです。

「にし」の語源は「去(い)にし」だといいます。


右と左のお隣さん

いつもながら、前置きが長くてすみません。書きたかったのは、実は、ここから先のことでございます。

宮古方言で、自宅の東側にある家はアガンニャー[aga n nja:]といいます。西隣の家はイーンニャー[iz n nja:]です。

「アガンニャー」と「イーンニャー」の概念図
  • 東側:
    アガンニャー /aganˌnjaː/(=東の家): 東[agazˌ] + ノ[nʊ](助詞「の」) + ヤー[ja:](家)
  • 西側:
    イーンニャー /yizˌnˌnjaː/(=西の家): 西[yizˌ] + ノ[nʊ](助詞「の」) + ヤー[ja:](家)

私の実家のある通りは、ほぼ東西方向に伸びています。実家はそのうちの北寄りの並びにあります。つまり、道路に面する門は、南向きです。同じ並びの左右の隣は、東側か、西側に当たることになります。
うちの場合、同じ通りにあってうちより東にあるお宅はみな「アガンニャー」なのですが、「アガンニャーの○○(名字もしくは呼び名、屋号など)」といわず、単に「アガンニャー」とだけ使うときは、うちから数件隣にある親戚宅を指していました。だから「アガンニャー」っていうのはその親戚宅の屋号だと、長いこと思っていました。違ったのねん。

しかし「イーンニャー」という言葉には、私はなじみがありません。たぶん、西隣には長いこと隣接する家がなかったせいだと思います(空き家>空き地>月極駐車場>再び空き地…と変遷)。でも、もしかしたら私ら子供世代が使っていなかっただけで、親や祖母たちは使っていたのかもしれませんね。

前と後ろのご近所さま

東西方向のお隣が、「アガンニャー」と「イーンニャー」。たまたまうちの実家が都合良く東西方向の通りにあったので、その概念は昔から違和感なく受け入れられるのですが、ではお隣さんが南側や北側にある場合はどういうのでしょうか。

パイヌヤー[paji nʊ jaː](南の家)、ニスヌヤー[nisɨ nʊ jaː](北の家)という表現は、聞いたことがありません。答えは、次の通り。

  • 南側:
    マイパラヤー /majiparajaː/(=前方面の家): 前[maji] + 原[para] + ヤー[jaː](家)
  • 北側:
    シバラヤー /ʃibarajaː/(=後ろ方面の家): 後ろ[ʃˌʃi] + 原[para](連濁) + ヤー[jaː](家)
北=前、南=後ろ

ああ、マイパラヤーとシバラヤーなら聞いたことがある! でも、なんというか、意外です。

それぞれ、言葉の通りに向かいの家(=マイパラヤー)・裏の家(=シバラヤー)と訳されることもあります。しかし実は、「前」=「南」、「後ろ」=「北」というもともとの概念があり、その上でこの表現があるとのこと。家の位置に限らず、南北の方向を指し示す語として前・後ろが使われていたようなのです。

「マイバラ」の「マイ[maji]」は「前」の意味です。パラは「原」つまりその場所を示します。
「シバラ」の「シ[ʃi]」は古語で後方を示す「くし」が変化したもの(kuʃi>ʃˌʃi>ʃi)。

私が参加している宮古方言研究会(通称:新里教室)で、新里先生がこれまでに何度か、方向・方角に関する話をしてくださった中に出てきました。私たちの祖先が北方から渡ってきたため、進行方向(=南)を「前」、その反対側(=北)を「後ろ」というのではないか、とのことです。

前[majipara]と後ろ[ʃˌʃibara]は絶対方向

ところで、先述の通りうちの実家の前の道は東西方向にあり、家の南側が通りに面しているので、そのままお向かいの家が「前」、家の裏側にある家が「後ろ」という感覚を違和感なく受け入れることができます。しかしお向かいの家から見たら、道を隔てて向かい合っている我が家が「シバラヤー」、後ろになってしまうのかしら。道が南北方向にあるところのお宅は、左右のお宅が「マイパラヤー」「シバラヤー」で、お向かいや裏のお宅が「アガンニャー」「イーンニャー」になるのかしら。

…というのが私の中で長年の疑問点でしたが、どうやらその通りらしい。道の通っている方向や家の方向に関係なく、自分の家から見て南側は「前」、北の方は「後ろ」になるとのこと。ちなみに東西方向を左右で表すこともあるのだとか。
方向を前・後ろでいうときは、体の向きによる相対的なものではなく、南を基準とした絶対方向なのですね。

さいごに

この記事のために作った画像の保存日時を見たら、2008年5月、となっておりました。画像中のこけしのような人物の髪型は、確か私の当時の髪型です。

その頃に書きかけて、その年の年末にに少し手直しをしたような形跡があって、そのまま…なんと、4年以上放置。4年越しの記事アップでございます。自分の だる~(なまけもの)さ加減に呆れます。でも、その4年間のうちに解けた疑問もあったから、アップする気になった、ということで(ごまかしておわる)。次の更新もおそらく不定です。ごめんなさいm(_ _;)m。書きかけで保存されている記事も、実はまだいくつかあるのですが…。


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Posted by Motoca at 2012年09月02日 14:40
コメント(1) | | カテゴリ:名詞

この記事へのコメント

おおっ!!

更新されてる。

素晴らしい!!

ともかく、継続していただきたいっ!!
Posted by coralway at 2012年09月17日 22:39

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