地名考 - カママ嶺公園

Motoca

2006年06月01日 21:45

(かままみね・こうえん)

それは平良の市街地が一望できる小高い丘の上にある。久松地区と平良市街地の境界あたりの位置である。

この「カママ嶺」という地名、子供の頃はなかなかうまく発音できずに困った。何度言っても「カママミメ」。いや、正直にいうと今も成功率は6割位だはず。

方言での言い方だと、「嶺」が「ンミ」となり、「カママンミ」となる。
どう考えてもこっちのほうが言い易い。
(しかし私が方言での地名を知ったのは、下地勇さんの曲「カママンミ」を初めて聞いた4年前のことである。残念!)

何故、無理矢理「嶺」だけを標準語にしたのか。無理矢理部分訳しなくても良いのではないかと本気で思う。かつての日本(ヤマトゥ)同化政策/志向の影響なのだろうか。

さらに、公園の近くにあるサンエー(沖縄の大手スーパーマーケットチェーン)の店舗名は、「カママヒルズ店」。hills…英訳である。この店舗ができたのは私がまだ宮古に住んでいた頃だから、たぶん、15年ほど前ではなかろうか。六本木ヒルズよりも表参道ヒルズよりも相当先取りのネーミングである。

ところで、「ンミ」が標準語にされようが英語にされようが、「カママ」の部分は何故か変えられることなく残った。 「ピサラ」の音に「平良」の字が充てられて「ひらら」の地名となったように、また「ウルカ」が方言の意味に字を充てて、「砂川」となったように、この地名は何故、手を加えられなかったのか。

残念ながら、宮古の地名に関する資料が一切手元にないため、ここから先はあくまで憶測の域を出ないのだが、「方言を勝手に解釈してみる」ブログの記事である故と思ってご容赦願いたい。

ある日たまたま、この地名のことが妹とおしゃべりの話題に上ったことがある。
その時にこんな話をした。
「カママ」の、はじめの二音…「カマ」は、宮古方言で「向こう/あそこ」を意味する。専門的にいうと「遠称の指示代名詞」となるだろうか。
先述の通り、そこは眺めの良い丘の上だ。街の方…低い場所から その場所を指していうなら「向こうの嶺」なのである。そういう語源ではないだろうか、というのがその時のふたりの結論だった。

この話を更に掘り進める。
「向こうの嶺」を方言で言うと「カマ ガ ンミ」となる(余談だが、実際の発音時は、「カマ」の距離感を強調するために「カマァー」と語尾をのばすことが多い)。
そこで、「カマ ガ ンミ」の助詞の「ガ」が、直前の子音の影響を受けて「マ」に変化したのではなかろうかと考えられるのである。
宮古方言の助詞は、前に付く名詞の最後尾母音の影響を受けて容易に発音が変わる。
「私を」が「バヌゥ(ban wu -> banu:)」、「彼は」は「カリャー(kari ja -> karja:)」、といった具合である。

仲宗根政善氏の論によると「マ」という語自体にも場所を表す要素がある。トゥクマ(所)、カマ(あちら),クマ(こちら)、などの語尾の「マ」である。(2007年5月22日, 修正時の追記)

既に定義されている変化の法則からはやや外れるが、音韻の変化が、口周りの筋肉の運動エネルギーを効率的に省略するための歴史的過程である、ということを考えると、考えられない変化の形ではないと思うのである。

…と、「小ネタ」カテゴリとは思えぬ位マジメな話に飽きたところで。

新宿駅から神奈川の箱根湯本まで延びる小田急線の駅に、「向ヶ丘遊園(むこうがおかゆうえん)駅」というところがある。
持論でいくと、この「向ヶ丘」という地名と、「カママ嶺」は、同じ発想で名付けられたのではないか、と思えてくるのである。

東京と宮古の小さな共通点。
基礎も根拠もない持論だけれど、自分でとても気に入っている発想です。

※「向ヶ丘遊園」・・・1927年に神奈川県川崎市に開園した、歴史ある遊園地であったが、残念ながら2002年に閉園。今は、最寄り駅であった「向ヶ丘遊園駅」に名が残るのみである。詳細はウィキペディアの「向ヶ丘遊園」の項を参照。

【参考】
みゃーくふつメールマガジン「くまから・かまから」Vol.85, 2004年10月7日発行


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